別府の共同湯の入浴マナー
〜浴室内での歯みがきの可否は、組合員に尋ねるべし〜

駅前高等温泉 湯の町別府の皆さんの共同浴場入浴マナーは素晴らしい。しかし、別府の共同浴場のマナーは、これが なかなかに難しい。

浴室で騒ぐな、かかり湯をして入れ、湯船の中にタオルをつるな、の類の極めて基本的な入浴マナーは ここでは論外として、よその土地では一般的でなくとも、別府では“常識”のマナーがあるのだ。

たとえば、別府の共同湯には、挨拶が健在である。知らぬ者でも「こんにちは」「こんばんは」の挨拶と共に風呂場に入り、誰かが「お先に」と上がるときには、浴室内の者は「さようなら」の言葉で送り出す。

日ごろ、私は別れの挨拶は「じゃぁね」「またね」程度で済ませてしまい、「さようなら」を言うのは こっぱずかしく感じてしまったりするのだが、別府の共同湯では、どこでも どの世代も、ごく自然に「さようなら」と挨拶する。それを聞くたびに、きれいな日本語だと感心する。

共同浴場ではあっても、色々な所から大勢の人が集う市営温泉の大きくてきれいなところになってくると、この挨拶は 聞かれなくなってしまう。

湯船の縁に腰掛けるのがタブーであることも、別府で覚えた一つである。これは、どこの共同湯でも徹底されている。もし、縁に座ったり寝転がったりしている人がいるとすれば、それは別府のマナーを知らない他所の人である。

さらに、今度は そこそこの共同湯ごとの独自の慣習や作法が存在する。温泉によって程度の差は感じられるが、厳しいところは非常に厳しい。それらの不文律は、よそから訪ねた者には、なかなかわかり辛い。

春日温泉 たとえば、湯船の周囲の洗い場に座る順序。あるいは湯元や水の調節の仕方や、その権利決定の方法。知らぬ外来者は、不用意に湯元に当たったり加水しない方が賢明である。

極端な例になると、ある所では、湯船につかっているとき、湯をすくって顔を洗っただけで怒られたこともある。某大学の近くの小さなジモ専に入ったときには、先客のお年寄りに 、某大学の学生のマナーの悪さの嫌味を さんざん聞かされた。「あんたは掃除も何もせんのだから、行儀よく入りなさい。」挙句に「あんたも○○大学の学生やろ?」はぁ?30代も半ばになって大学生に間違えられるとは思わなかった。近くなので どうやら大学生や留学生も多く入りに来るらしく、その愚痴がたまっているらしかった。

話が それたが、こちらの暗黙の仕来りは そこそこの共同湯ごとに異なる。ある温泉が そうだからといって、別府のすべてで通用するものではない。

改めて数えてみると、別府で私が入った温泉は150ヵ所以上になり、その かなりの割合を共同湯が占める。別府の共同湯の作法は、色々なところで見様見真似で倣い覚え、あるいは地元の組合員さんに注意され、怒られて失敗を通して身につけてきた。おかげさまで、最近は 別府の どんな小さな共同湯にも臆することなく入れるようになったと思う。

しかし、今でも時々失敗してしまう。

今回は、野口中央温泉での話。脱衣場への上がり口の階段の近くで体をすっていたら、さっそく怒られた。「水道のカランは そこ一ヵ所しか無いんだから、そこは上がり湯する場所。体をそこで洗ってたら、他の人が邪魔でしょ。」なるほど、思慮不足で、すみません。謝って、すぐに移動。

風呂から上がって受付のおばちゃんと話していたら、今度は「おたく、風呂場で歯を磨いていたでしょ?」え?湯船の中では磨いてませんが?「風呂場で歯を磨くのが、マナー違反。」と畳み掛けられる。

普段、私は別府の共同湯で歯を磨くことは無い。このときは 写真が撮りたくて、人が引くのを待つために頭も体も洗い、それでも時間を持て余して、ついでに歯も磨いていたのだ。熱い湯に長々つかっていては、のぼせてしまうゆえ。それを、誰かが おばちゃんと話して「あの人は、よその人だね。」という話になったということらしい。 大和温泉

言い訳するわけではないが、別府の共同湯でも、浴室内で皆さん公然と歯磨きするところもある。受付のおばちゃん「よそがどうかは知らないけど、うちは、歯磨きしてはいけないことになってるの。直接は言われなかったかもしれないけれど。」そうでしたか、知らなかったとはいえ、それは申し訳ないことをしました。今後気をつけます。かくして「歯を磨きたければ、それが許されているのかどうか組合員さんに訊いてからにすべし」という新たな教訓を得ることができた。

別府に住んでいる人が皆、別府のあらゆる温泉に詳しいわけではない。受付のおばちゃんは、組合員専用のジモ専の存在も知らなかった。「100円払っても入れない温泉があるの?」管理人を務めている人でも、こんな調子。組合員として毎日決まった温泉を使っている人は、案外、よその共同湯のことは知らないことが多い。「いつも ここの温泉に入っているから、たまに どこかに行くとしたら、露天風呂があるきれいな旅館の お風呂に行くのよね。」そんなもんだろうな。だからこそ、なおのこと そこの共同湯のルールが絶対的なものになるのだろう。

だが、素直に初心者の非礼を謝り、教えを請うと、たいがい温かく接してもらえる。浴室内で座ってはいけない場所を注意してくれた方も、最初は見慣れぬよそ者を警戒し、露骨に嫌な顔をしていたが、上がるときは実にニコニコと優しい顔で「皆、何回もここに通っているうちに覚えていくものよ。こちらに来るときには、是非またいらっしゃい。お気をつけて。」と ご丁寧に声をかけてくださった。

別府の共同湯の数は、150とも170とも言われるそうである。温泉を併設している市中公民館も多い。別府市民にとって温泉は、あたかも空気や水のごとく あるのが当たり前の土地柄。そして、それぞれの温泉ごとに 150とも170ともいえる数のコミュニティーが形成されているのだ。たとえ物理的距離が わずか数百メートルしか離れていなくても、それぞれの温泉コミュニティーが まったくの異文化だったりするところが、私のような よそ者には面白くもあり、怖くもある。別府の温泉文化は、つくづく奥が深い。

※写真は上から 駅前高等温泉、春日温泉、大和温泉




温泉めぐりモノグサ写真日記@九州  大分県別府市  2005年05月一覧